翻訳者に向いている人・向いていない人

こんにちは。星野陽子です(自己紹介)。

帰国子女でもなく、留学経験もなく、三流短大の英文科卒の私が特許翻訳者として年商2千万円を10年以上続けられたのは、運がよかったと思います。

しかしながら翻訳者に向いているという面も少なからずあります。

一方、私がうらやむような学歴や語学力がありながら、翻訳者としては成功しなかった人たちもたくさんいます。

特許明細書の翻訳(日本語から英語)をしている私が、翻訳者に向いている人・向いていない人を考えてみました。

翻訳者に向いているのは次のような人でしょう。

1 翻訳者に向いているのは責任感がある人

以下の項目に重なるところがありますが、大きく言うと「引き受けた仕事をお金がもらえるレベルで期日までに納品する」「納期までに納品できない事態が起こった場合は誠意を持ってベストを尽くす」という、責任を全うできる人です。

「仕事を引き受けながら納品しない人がいるの?」
と驚く人がいるかもしれません。

けれども引き受けたものの、様々な理由で期日までに納品できないかも??と思うことが起こります。

私自身の経験で言えば、私はいつも特許翻訳の明細書のタイトルとボリューム(量)と納期を聞いて引き受けるかどうか決めるのですが、私が引き受ける電気・電機分野という話であったものの原稿を見ると化学分野の技術で、私がよくわからない内容だったことがありました。その時は原稿をいただいた時点で、依頼してくださった翻訳コーディネーターさんに事情を説明してお断りしたい旨を伝えるとすぐに理解してくださいました。

それから私が大きなミスをしたことがあります。自分のミスについて弁解するわけではありませんが、人間である以上、ミスをしてしまうことがあるかと思います。そんなときは逃げずに謝り、誠意を持って全力で対処することです。

詳しく言うと、ある翻訳会社のコーディネーターのAさんとBさんから同じ納期で同じボリュームの翻訳の仕事を引き受けたとき、私はカレンダーにその会社の名前とボリュームを書きました。私のミスは、引き受けたときにバタバタしていたため、カレンダーの納期の日に書いたのが会社名だけだったことです。Aさんからの原稿を受け取って、その原稿だけの翻訳をその納期日に納品しました。

その次の日にBさんから「納期は昨日だったのですが、今日は納品大丈夫ですよね?」との連絡がきて、Bさんの原稿をメールで受け取っていたのにAさんの原稿だけで安心してしまい、Bさんのメールを見落としていたことに気がつきました。

「血の気が引く」とか「寿命が縮まる」などの言葉を体で感じることになりました……。

「ど、ど、ど、どうしよう!!」とパニックになり、湧き上がる「逃げたい!」という気持ちを抑えて、率直に自分のミスを話してお詫びして、「これから必死に仕事をして最短で納品できるのが2日後の朝です」と最短納期を伝えました。「……仕方ないのでそれでお願いします」という返事をいただきました(翻訳コーディネーターさんは客先に納期の延長をお願いしたかもしれません。もしかしたら翻訳チェッカーさんが大急ぎでやってくださり客先の納期には間に合ったかもしれません。本当に申し訳ありません!)。

納品するまでは、睡眠も削って(布団で寝ることはしなかったのですが、途中で椅子に座ったまま寝てしまったり、椅子から滑り落ちて床で寝てしまったりということはありました)、がんばりました。

またある時は子どもがインフルエンザにかかってしまい、私もうつってしまったことがあります。「根性!」と気合を入れて翻訳をしようと思ったのですが、子どもたちの看病が大変になったのと、自分自身も40度近くの高熱と吐き気で起きているのがつらく、頭がぼーっとしてなかなか原稿の理解ができない事態になってしまったので、事情を説明して納期を延期してもらったことがあります。

またある時は、友人の翻訳者が病気になって、責任感のあるその人から懇願されて仕事を引き受けたこともあります。特許翻訳は機密事項なので、依頼した翻訳者が発注先に許可を取って、私が契約書にサインをして引き受けました。

それから、お付き合いのある翻訳会社から「急ぎで仕事を引き受けてもらえないか」とお願いされたことがあります。理由はある翻訳者に仕事を頼んだのに納期の日に納品されず、以降連絡が全くつかなくなってしまったから、とのことでした。

2 翻訳者に向いている人は調べものが得意

英文から日本語への翻訳では、意味がわからないものがあっても「わからない」だけでは済まされません。あの手この手で徹底的に調べ、調べても見つからないときは推測して「もしかしたらxxxの間違い?」などと自分なりに結論を出して成果物を出さなくてはなりません。

検索技術と推測する力が必要です。そしてそれを裏付けるものをいくつか探して、「こういう理由でxxxだと思い〇〇と訳しました」とコメントをつけたりします。

特に駆け出しの頃は「なんだ、こんなことも知らないの?」と思われたらどうしようと非常に不安になりました。

3 翻訳者に向いている人はやりきる力がある

どんなにむずかしくても、正直なところ「原稿が悪すぎる!」と思っても、やりきらなくてはなりません。

私も「投げ出したい!」と思ったことが何度もあります。けれども最後までやりきって納品できなくてはなりません。

さらにフリーで一人でやっている人は、質問をできる人があまりいないか、全然いないという場合が多いかと思います。

私はメールで質問に答えてくれる人たちが数人いましたが、特許明細書という機密の原稿であることから、あまり人に聞くことができませんでした。自分ひとりで難しい仕事を仕上げる必要がありました。

4 翻訳者に向いている人は時間を守ることができる

納期までに成果物を納品する必要があります。時間との闘いでもありますが、品質を上げようと思えばきりがなく「納期がないと一生あれこれ悩んでいるかもしれないなぁ」とよく思っていました。

「フリーランスの時間術」

5 翻訳者に向いている人は、原稿を書いた人をリスペクトして気持ちに寄り添える

生意気ですが経験を積んでくると「こういう書き方よりもxxxと書けばいいのに」とか「いいたいことはxxでは?」などと考えて少し表現を変えたいと思ったりすることがあります。

けれども翻訳者は黒子に徹し、書いた人の真意に基づいてそれに合った意味で翻訳をしなくてはなりません。

6 翻訳者に向いている人は一人で過ごすことができる

私の場合、忙しいときには「子ども以外と話をしなかった」という日がありました。それを苦痛に感じる人たちもいます。私は、家にこもって、パソコンに向かって一日中作業をしても、気分転換を何度かすれば、それほど苦痛に感じません。

それは能力の問題というよりは性格などによるかと思います。

7 翻訳者に向いている人は周りがうるさくても集中できる

いつも静かな環境が得られるとは限りません。私は子どもたちが保育園や学校に行っているときや、みんなが寝ている深夜などには静かな環境で仕事ができました。けれども子どもが騒いでいたり、マンションの大規模修繕があったり、ずっと吠えている犬が近所にいたり……ということがありました。

そんなときでも集中して仕事をし、納期までに納品しなくてはなりません。

8 翻訳者に向いている人はストレスをうまく軽減できる

納期までにきちんとした成果物を納品するのは、人によってはひどいストレスになります。聞いた話では、翻訳者ではありませんが「納期に間に合わない」ということを悲観して自殺を図った人がいたり(幸い未遂で済んだそうです)、根を詰めすぎたのか突然亡くなってしまった人がいるそうです。翻訳者としての実力がありながら「翻訳の仕事をしていると、胃が痛くなる」ということでやめてしまった人もいます。

そういう話を聞くと私は図太いのかもしれませんが、ストレスを感じることが多々あります。原稿がひどくても、一人で孤独でも、周りがうるさくてイライラしても、穏やかな気持ちでサクサクと仕事をしたいと思っています。

ストレスをうまく軽減する方法ですが、人によるのでは?と思います。

私の場合は、数分であっても外でコーヒーを飲んだり、お店をのぞいたり、買い物をしたりすると気分転換になります。ワンコのお散歩も欠かせません。短い時間(長くても15分)寝るとすっきりするときもあります。おいしいお茶やコーヒーを淹れて飲んだり、アロマを焚いたりというのも効果があります。音楽を聴いたり、お料理をしたり、花を飾ったり愛でたりするのも好きで、気分が良くなります。

子どもたちが反抗期でひどい言葉を投げつけてきたときには、仕事どころではなくなり、怒りが収まらずお皿を床に投げて割ってしまったことがありました。これはもったいないですし、危険ですし、後片付けに時間がかかるため、お勧めしません(笑)。

そんなときはPETボトルを潰しまくって怒りを発散させました。こちらはお勧めですよ(笑)。

9 翻訳者に向いている人は思い込みをしない

原稿に書かれていることについて「ああ、これはxxということだな」などと思いこまず、たとえば、自分が知っている単語についても、もう一度確認してみたりします。

私は日本語から英語の翻訳をしていますが、和英辞典で出てきた英語をそのまま使ったりせずに、英英辞典で意味を確認したり、インターネットで文脈の中でどう使われているのかいくつかの文献でチェックしてから採用します。

10 翻訳者に向いている人は謙虚な気持ちを持っている

これは翻訳の仕事を発注する人たちからよく聞くことですが、翻訳者に「もしかしたら翻訳文のxxは違うのでは?」と聞いたりすると、学者レベルかと思うほどいろいろと言ってきて「自分は間違っていない」と主張する翻訳者がいるそうです。もちろん私も自分が正しいと思えば、理由を丁寧に書いて間違えていない旨を伝えます。けれども謙虚な気持ちをいつも持って、間違いがあれば、素直に認めて、より良い成果物になるように協力するべきかと思います。

11 翻訳者に向いている人は健康管理ができる

私は無理をし過ぎて「黒目の皮」が剥けてしまい、数日仕事ができなくなってしまったことがあります。当たり前ですが健康管理は重要です。フリーランスで在宅でひとりで仕事をしている私は、納期が間に合わないと焦って徹夜をしたりすると昼と夜が逆転してしまうときがあります。いつでも健康でいたいと思います。

そして翻訳者に向いていない人とは、上記に当てはまらない人です(書き方が手抜き~(笑))。

 

ABOUTこの記事をかいた人

著者。特許翻訳者。ユダヤ人富豪の義父に学び、自らも7億円の不動産資産を築いた不動産投資家という顔も持つ。 東京都出身。外資系メーカー、シティバンク勤務を経て、イスラエル国籍のユダヤ人と結婚。子ども二人に恵まれるも離婚。在宅で翻訳の仕事をフリーランスとしてしながら、シングルマザーとして子ども達を育てた。東欧からの移民の子で、14歳から働き、資産ゼロから財産を築いたユダヤ人の義父からは不動産投資を学び、投資物件(7億円)などの資産を築いた。著書に『ユダヤ人と結婚して20年後にわかった金銀銅の法則50』『ユダヤ人大富豪に学ぶ お金持ちの習慣』『貧困OLから資産6億をつかんだ金持ち母さんの方法』『お金の不安から自由になって幸せな女になる』がある。