文系出身者が技術翻訳をできるのかどうか聞かれることが多いのですが、答えはイエスです。
短大の英文科卒で電気分野の特許翻訳(日本語から英語)をしている私の経験を書きます。
最初に入った会社が制御機器メーカーで、制御機器の輸出手続きをするのが私の仕事でした。輸出時に製品の説明をするために、技術者に技術的なことを教わっていたので少しばかり知識があります。
文系の人が技術翻訳をできると書きましたが、文系の人は技術のことをほぼ知らない、または、ある程度知っていても理系の人に比べて技術に対する理解が浅いかと思うので、自分で勉強したり、調べたりする必要があります。
1 広く浅く(深いに越したことはないのですが)知識を得る
最初は、高校生向けの基礎的な本、その分野の専門的な雑誌(日本語・英語)、関連の文献などを読みます。
私の経験では、日本語で書かれた技術の説明より、英語で書かれた説明の方がずっとわかりやすいので、英語の文献を読むことが多いです。
理由は英語で書かれたものの方が論理的でむずかしい単語が使われていないからかと思います。日本語で書かれたものは、難しい言葉が使われていたり、論理的でなかったり、主語がなくて何を指しているのかわからなかったりします。ある程度知識のある人にとって主語がなくてもわかると書き手の方は思われているのですが、情けないことに私はそこで引っかかってしまうことがありました。
2 案件ごとに深く知識を得る
私は駆け出しの頃は、案件ごとに専門的な辞書や専門書を購入しました。かなり早い段階で辞書類に100万円以上使いました(当時はインターネットが一分いくらみたいな感じで課金されていてスピードも遅くあまり使えなかったので辞書に頼ることが多く、「辞書も実力のうち」と言われていました)。今はネットで検索すればヒットするかと思いますが、情報が本当かどうか調べないとなりません。
調べものをあまりしたことがない人は、調べるチカラ 「情報洪水」を泳ぎ切る技術などの本を読まれるといいでしょう(株式会社イーパテント代表取締役社長で知財情報コンサルタントの方が書かれていますが、技術や特許についての調べものの本ではありません)。
たとえば半導体製造装置の発明についての明細書を初めて翻訳をするときには次のような流れで勉強します。
・『よくわかる半導体製造装置』『図解xxx』のような本、その後、難易度を上げて本を読む。
・ 原稿(明細書)を読んで図面を見ながら、書いてある技術の理解に努める。
・ 半導体製造装置用語辞典(これはよく使った!)など専門の辞典を使って単語をひとつひとつ理解し、対応する英語の単語を調べる。
・ 得られた英語の単語の意味を英英辞典で確認。
・ 類似の英文明細書や文献、半導体製造装置協会など国内外の関連団体や組織、企業のホームページなどをチェックして、技術の理解を深め、英語での表現を抜き出す。
(ここまでの作業は仕事をもらったらなるべく早くやります。わからないことや調べものにどのくらい時間がかかるか考えておきます)
・ その後、原稿をもう一度読み、単語を抜き出して単語帳(用語集、グロッサリー)を作成し、翻訳作業に取りかかる。
翻訳作業中も調べものをたくさんします。翻訳作業後には次のようなことをします。
・ 単語帳(グローサリー)は保存。
・ 使われる言い回しも分野ごと(機械ごと)に保存。
・ 参考となるホームページなどのリンクを保存。
自分の辞書や資料集を作っておくと、次回似たような案件がきたときに使えます。最初は文字通り「吐き気や頭痛がする」ほど苦しかったのですが、どんどん知識や資料が貯まっていくので、仕事をすればするほど楽になっていきます。
不明点は、技術者の知り合いに聞いたりしましたが、最初の頃は説明をされても「何を言っているのかわからない」状態でした。自分の知識が浅かったのと、技術の説明をしているうちに夢中になって、私が理解しているかどうかは全然気にかけない人たちに聞いてしまったのが原因かと思います。けれども調べものが上手になってくると、人に聞かなくても理解できるようになってきました。
3 セミナーや勉強会で学ぶ
たとえば装置ばかりの翻訳をしていても、バイオや化学や通信など「違う分野」の記述が入っていることが多々あります。ですので、違う分野であってもセミナーや勉強会で知識を得るようにしていました。特許翻訳をしているので、特許法のセミナーやアメリカ人弁理士さんの勉強会なども参加しました。当時はそのようなセミナーはあまりなかったと思います。今は動画を探せば簡単に家で学ぶことができるのではないでしょうか。
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